公園長ブログ 「命」

命、それは、始まりも終わりも人の心を揺さぶるものです。
2年前の梅雨の頃、本園としては久しぶりの大型獣の出産がありました。
キリンのキララ 命に出会うというのは大変なことで、母さんのユララも大変でしたが、それをサポートする人間のほうも本当に大変です。もっとも、全てを自然に託していれば、なんてことはないのですが、少しでも自分たちで命を救いたいと思った瞬間、スタッフにはものすごい重圧がかかります。キリンの出産は普通、時間はかからないものですが、キララの場合破水から2時間以上長引く難産で、産み落とされた時にはぐったりして息をしているのかどうかさえわかりませんでした。午後2時頃でしたか、私はちょうど自然史博物館の大型映像のプレゼン審査真っ最中でしたが、私のもとにも刻々とメールで情報が入ります。出産が始まった。頭が出た。体が出てこない。ぐったりして息をしていないようだ。生まれたが動かない。みんなでマッサージしている。もう審査どころではありません。正直、半分諦めながら獣舎に駆け付けると、獣舎の奥には、ユララのミニサイズのキリンが首を持ち上げ、私をきょとんと見つめていました。母さんのユララは隣の部屋で落ち着きなさそうに動き回っています。とりあえず、第一関門突破、しかし、これからが正念場でした。
母親のユララは興奮して、子供を寄せ付けようとしません。まずは、濡れた体を乾かして、近くの牧場から入手しておいた牛の初乳を飲ませます。でも飲まない・・哺乳瓶に吸い付くということがわからないのです。
ユララの興奮が少しおさまってきたので、顔合わせを兼ねて母子を合わせようと試みますが、ユララは蹴るそぶりもして大変危険です。子供の救命のため、一時でも母親から離したのがいけなかったのでしょうか。一瞬、アーシャーとマーラのことが頭に浮かびました。母と子になれなかった二人、母親に育てられなかった子ゾウはやがて、発育不良で骨折し、二度と立ち上がることはありませんでした。
しかたがないので、飼育員や獣医が交代で子供の口に哺乳瓶をあてがいます。2時間、3時間、時間は過ぎていきますが、いっこうにミルクはおなかにはいっていきません
生まれてから、まだ何も口にしていないので、スタッフも焦り始めました。
点滴のチューブを鼻から差し込んでミルクを流しましたが、濃いミルクはチューブの中で詰まってしまいます。ようやく子牛用の太いチューブを使ってミルクがおなかの中に入っていたのは夜中の10時を回っていた頃、やがて、子供は、トローンとした表情で目をつむっていきました。
それから、毎日、毎日、職員が集まり、チューブでの授乳が始まりました。子供の力もどんどん強くなり、押さえる人間も必死です。こんなことが、いつまで続くのか。漫然たる不安が漂っていた日々、少しでも母子の関係を作ろうと2頭をサブ放飼場に出して様子を見ました。ユララはすっかり落ち着いて、子供がちかづいても驚く様子はありません。
母子になれなくても、せめて仲間として受け入れてくれれば、そんなことをスタッフが思い始めた頃、突然無線が入りました。「ユララが授乳しています」
サブ放飼場を遠い位置から望むと 子供がユララのおなかの下にもぐって懸命に吸い付いているのが見えました。ユララは子供に合わせて体を寄せています。
母さんに甘えるこどもと、子供に寄り添う母さん、奇跡のような瞬間でした。哺乳瓶をあんなに拒否したのに、母さんのおっぱいにはあんなに・・・・
スタッフの泣き笑いとほっとした笑顔、終わりよければすべてよし、しかし、自然の営みの前には、人間はとても太刀打ちできないことをつくづく知らされた出来事でした。

 

 

 

 

あの時の子供 キララも 大きくなって 今 新たな動物園に旅立とうとしています。
さようならキララ 僕たちのこと忘れちゃうかな 向こうの仲間と元気でね

 

 

 

 

 

 

 

 

キリンのキララ

 
草原を疾走するキララ
お母さんの傍らで
うれしそうに 春の若芽を食べるキララ
僕たちは君が大好きだった

 

 
君が生まれた時
ミルクを飲もうとしない君と
君に無関心だった母さんに
どれだけ心配しただろう

 
毎日 毎日 ミルクの管を口から入れるために
僕たちはみんな獣舎に集まって 君の体にしがみついていた
毎日 毎日 それは永遠に続くかと思われた
打開策も見つからず 力で押さえるのも限界になったころ

 
奇跡は起きた

 
母さんのおなかの下で おっぱいを探すキララ
それを促すように ゆっくりと体をよせる 母さん
そして それを知らせる 震えた無線の声 声 声
みんなが心から祝福をしたあの瞬間を 僕はきっと忘れない

 
あれからもうすぐ2年
どんどん大きくなって 独り立ちをしようとしているキララ

 

明日には ここを離れて 新しい世界へ旅立っていくキララ

 

どこにいっても いつでも きっと
僕たちは君の幸せを願っている
新しい家族 新しい生活
そして
君の未来に 再び 心からの祝福を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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